「ピンピンコロリ」がOKで,「さっさと死ねるように」がNGということ


 なんで騒ぎになってんだか。

 麻生太郎副総理兼財務相は21日開かれた政府の社会保障制度改革国民会議で、余命わずかな高齢者など終末期の高額医療費に関連し、「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と持論を展開した。

 また、「月に一千数百万円かかるという現実を厚生労働省は一番よく知っている」とも述べ、財政負担が重い現実を指摘した。


麻生副総理「さっさと死ねるように」 高齢者高額医療で発言 - MSN産経ニュース


 結局,この発言は「私個人の人生観」として公の場の発言では不適当として撤回されるわけだが,麻生副総理の脳裏には,ちょうど前夜のこの番組,もしくは,この番組の番宣があったのではないか。

『歳をとることは罪なのか――』
今、高齢者が自らの意志で「死に場所」すら決められない現実が広がっている。
ひとり暮らしで体調を壊し、自宅にいられなくなり、病院や介護施設も満床で入れない・・・「死に場所」なき高齢者は、短期入所できるタイプの一時的に高齢者を預かってくれる施設を数か月おきに漂流し続けなければならない。
「歳をとり、周囲に迷惑をかけるだけの存在になりたくない…」 施設を転々とする高齢者は同じようにつぶやき、そしてじっと耐え続けている。
(略)


NHK 番組表 | NHKスペシャル「終(つい)の住処(すみか)はどこに 老人漂流社会」


もちろん,個人の経済問題でもある。だが,これは健康寿命の問題だ。

平均寿命のうち、健康で活動的に暮らせる期間。WHO(世界保健機関)が提唱した新しい指標で、平均寿命から、衰弱・病気・痴呆などによる介護期間を差し引いた寿命のこと。


健康寿命 とは - コトバンク


つまり,健康寿命 = 平均寿命 ー 介護期間

2000年にWHO(世界保健機関)が健康寿命を提唱して以来、寿命を伸ばすだけでなく、いかに健康に生活できる期間を伸ばすかに関心が高まっています。

健康寿命が「心身ともに自立し、健康的に生活できる期間」と定義されているため、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味します。平成22年において、この差は男性9.13年、女性12.68年でした。今後、平均寿命が延びるにつれてこの差が拡大すれば、健康上の問題だけではなく、医療費や介護費の増加による家計へのさらなる影響も懸念されます。健康に配慮する一方で、こうした期間に対する備えも重要になります。


健康寿命とはどのようなもの?|公益財団法人 生命保険文化センター


戦後,「長生き」に憧れ,「平均寿命が伸びた」とニュースで喧伝してきた。だが,人生における「不健康な期間」の拡大は,「医療費や介護費の増加による家計へのさらなる影響」ばかりではなく,社会経済への負担となることに目をつむってきた。
 病気に苦しむことなく,元気に長生きし,病まずにコロリと死のうとピンピンコロリが提唱される一方で,「さっさと死ねるように」は撤回しなくちゃならない。そんなことに圧力をかける暇があるなら,「不健康な期間」を縮小させるよう知恵を出せっつーの,と思わざるを得ない。
 生き方であり,死に方である。真剣に考えてないのは,どっちだ。