「実技」としての「世間で生きる技術」


 書評で見かけた本を読んでみようかと図書館で検索すると貸し出し中とのことだったので,同じ著者の本が貸し出し可能。同じ著者ならば,と手に取ってみた。
 今野浩著「工学部ヒラノ教授」。

 大学人として歩んでいる方々にとっては,興味深く,また,納得したり,参考にしたりすることもあるだろう1冊かと思う。どちらかと言えば,後進に向けて書かれた内容は,他の業種の者にとっては,実はそれほど胸踊る内容ではなかったりもする。それでも,以下の7ヶ条は参考になるのではないか。

エンジニアとしての素質が乏しい男が,半世紀近くにわたって大過なく勤め上げることができたのは,先輩諸氏から学び取った「工学部の教え7ヶ条」に従って,自らを律してきたおかげである。


[工学部の教え]
第1条 決められた時間に遅れないこと(納期を守ること)
第2条 一流の専門家になって,仲間たちに信頼を勝ち取るべく努力すること
第3条 専門以外のことには,軽々に口出ししないこと
第4条 仲間から頼まれたことは,(特別な理由がない限り)断らないこと
第5条 他人の話は最後まで聞くこと
第6条 学生や仲間をけなさないこと
第7条 拙速を旨とすべきこと


 初めてこの文言を見る人は,“つまらないことばかりじゃないか”と思うだろう。かく言うヒラノ教授も,若いころはそう思っていた。しかしこの7ヶ条こそが,解析学における「ハイネ・ボレルの定理]のごとく,エンジニア集団を被覆する大原則なのである。


p.97〜98 「工学部ヒラノ教授」 今野浩


私も概ね同意する。「なんだ,そんなことかよ」ではないんだよ。「そんなこと」が積み重なって「ものになる」ということなんだ。

 壇上に進み出たキヨチャンは,「諸君。(理学部ではなく)工学部に良く来てくれた。今日から諸君は僕らの仲間だ。これから訓辞を述べるから,良く聞くように。エンジニアは時間に遅れないこと,以上」と言ったきり,椅子に腰を下ろしてしまった。
 呆気にとられた学生たちの前で,司会役の助教授は少しも慌てず,「以上で工学部長訓辞を終わります。諸君は,これから各学科に分かれてガイダンスを聞いてください」と宣言して,会はお開きとなった。


p.98 「工学部ヒラノ教授」 今野浩


短いあいさつを聞いた時,実は「寸鉄人を刺す」がごとき,重要なことを言っているのかもしれない,と反復してみるのもイイかもしれないね。


工学部ヒラノ教授

工学部ヒラノ教授