ある人気プロジェクトチームマネージャー交代の真相


 ある会社にプロジェクトチームがあったとする。そこは大変人気があり,各部署の憧れで,各人がそこを目指して日々,努力していると言ってもイイほどの存在だ。かつては,自社内でチームマネージャーを充てていたが,なかなか思うような結果が出せず,たまたま社外から招いた人材が地方のセクションで,その部署を飛躍的に伸ばしていたことからチームマネージャーに抜擢したところ,プロジェクトチームも業界内でのヒットを産み出すようになった。この頃から,チーム内でもスターが登場するようになり,社内も同時期に風土改革が進み業界内での地位も飛躍的に伸びることとなった。
 しかし,業界シェアは決して高いわけではなく,中堅以下であることには変わらなかった。全国区への突破ができなかった。次の外部からのマネージャーは短期に終わり,自社内で結果を出していた重鎮からプロジェクトマネージャーを,再度託すこととなった。内部からのマネージャーは顧客へのメッセージがわかり易いこともあってウケは良かった。その会社全体の体力は向上していたから,今度こそは全国区への期待が高かった。しかし,大事なところで結果が出ない。むしろ,これだけのタレントを揃えたプロジェクトチームなのだから,と指揮に疑問符がついた。ライバルとの大事な商戦を敗北に終わらせたことで,この重鎮マネージャーは退任となった。なんと,後任は重鎮マネージャーの側で支える立場の若手マネージャー補だった。このタイミングを逃したくなかった経営陣が,急ごしらえであったが,チームマネージャーをすげ替えるにはこれしか選択肢が無かったのである。偶然とは恐ろしい。この新プロジェクトマネージャーが結果を出した。全国区でのヒットを飛ばした。
 その後,外部からのチームマネージャーを再三招き,そこそこの結果を出した。同社はすでに業界内でも中堅どころの存在として,知られるようになった。プロジェクトチームから生まれたスターも業界団体で活躍するものも生まれるようになった。そうこうしているうち,また,新たに外部からチームマネージャーを招聘することとなった。彼も自社内の弱小セクションを立て直したことが評価されてもことに加え,これまで業界内で活躍していた経験も広く知れ渡っていたこともポイントだった。
 だが,彼にはちょっとしたクセがあった。知的であるものの皮肉屋であり,ときに顧客に考えさせることがあったのだ。つまり,そうしたクセを好む顧客の層からは絶大なる支持を受ける反面,自分たちのことをバカにしていると受け取る連中も少なからずいたのだ。
 しかし,彼は結果を出した。がんじがらめでもなく,また,エモーショナルなだけでもなく,モダンで知的なプロジェクトチームへと変化させようとしたし,事実,チームはその姿を変えつつあった。そう,変えつつあった。だが,ある層への評判の悪さは決定的となっていた。確実に結果を出せるチームへと変貌しつつあったが,次に何が起こるかとワクワクさせる存在では無くなっていた。地味な連中が淡々と結果を出す,そんなチームとなっていった。顧客からの人気は落ちていった。社として立て直しの検討が始まっていた。
 解任する理由は数字を見る限り見当たらない。しかし,交代が迫られている。経営陣とチームマネージャーとの合意の上で,このチームマネージャーを急遽,入院させることとし,衆目に堪えうるような納得のいく交代とする必要があった。入院は,チームが落ち着いたある日,決行された。チーム内に動揺が走った。顧客も含めて,彼の無事を祈ったが,所詮,仮病である。彼はもともとの皮肉屋らしく,この事態を楽しんだ。世間の注目は,新マネージャーの人選だった。思いもよらぬ結論となった。なんと,かつてマネージャー補から抜擢されてマネージャーを短期ながら任された男に白羽の矢が立った。
 幸いの今度の新マネージャーはウケがイイ。皮肉屋でもないし,考えろとも言わない。つまり,バカにされたとは思われない。単純に数字や理屈ではないものが,支持を集める。もちろん,結果を淡々と出すことの方が難しいのであるが,この会社の顧客はプロセスにドラマチックを求めるきらいがある。結果が全てではあるが,結果は全てではない。病床にあるはずの彼は,経営陣との約束により,この社内では,もう決して表に出ることは無い。伝説としてのみ生きることが許される。また,真相は誰も知らないこととなっている。このプロジェクトチームそのものが夢であるために,プロジェクトチームがエモーショナルな存在であることを優先させようと経営陣と彼との共犯による自作自演なのだから。