祖母とリラックスと


 祖母に会いに行った。虫の知らせではない。リラックスのことを考えていた。私は和室,もう少し正確に言おう,畳の上でくつろぐことが苦手で,どう振る舞っていいのか戸惑う。ソファや椅子があると,その上でグダっとすることはできるのだが,まるで他人のベッドの上にいるようないづらさが私を覆う畳の上では,動きがぎこちなくなる。このことは周りの人に普通に伝えているし,実際,知っている人も多い。まぁ,あまりいい顔はされない。当然かと思うが,偽りや欺瞞ではないので,正直に言っているだけだ。畳の上でリラックスできない,と。
 ふと,祖母の小さな家ではリラックスしていたことを思い出した。幼少の頃の私は,祖母の家に一人で預けられることが多く,祖母の小さな家で二人で過ごしていた。そこではくつろいでいた。安いビニールレザーが敷いてある部屋でゴロゴロしていたし,畳の上で寝そべったりもしたように思う。フツーに過ごすあの時間があったことを思い出すと,祖母に会いに行かねばならないと思った。齢九十を超えた祖母は老人保健施設の部屋にいる。もう何も考えていない子どもの私ではなく,考えてばかりいる今の私が祖母に会う。バアちゃんはバアちゃんであることが,ありつづけていることがありがたく,かつてあなたの家で全面的に緊張を解いた私がいたのだ,と確認する。
 くつろげないのは物質がつくる空間か。むしろ,私の関係性がつくり出す状況に支配されるためなのだろう。