ひな祭りなので桜餅を買ってきた。


 行きつけのお餅やさんに昨夕,出かけた。ショウケースの中は空っぽで,桜餅どころか大福すらない。煎餅などの生もの以外はあるのだが,どうしていいものか立ち止まってしまった。だいたい,3月3日の夕方に,予約もしないでひょこっとやって来るほうがどうかしている。無くて当然だろう。当日だぞ。あきらめの気分に入りつつも,あぁ,困ったな,買ってくると言ったのにナ,と思った頃,店の奥からお姉さんが出てきた。「何になさいますか?」「…(だって,何もねえじゃん)」「?」「(よし,ダメもとで聞いてみよう)あの,桜餅ぃ,ありますか?」「ありますよ!」


 えっ?あるんだ,ラッキー!と思ったのと同時に,残り物をさげてたのかな?とも思った。だが,その彼女はなかなかあらわれない。立ったまま待っているのもどうかな?と感じ始めた頃,彼女,登場。手にした皿には,プリプリとかがやく桜餅。出来立てなのだ。彼女の「ありますよ」とは,「これからつくるので,ありますよ!」だったのだ。


 私は,出来立てのとっておきの桜餅をひな祭り当日に手に入れることができた。餅の部分は輝いているだけでなく,弾力のある食感を楽しむことができた。餡の甘さは抑制が効いていてので,安心して口に入れた(もともと,甘味は得手ではないのだよ)。餅をくるんでいる塩漬けの葉っぱは十分にしょっぱく,自店で丁寧に漬けてあることを感じた。美味しかった。これまでで1番だ。


 店舗に立つ店員が,十分なこだわりと愛情をこめて,急な客の求めに応じて商品をつくることができ,そして笑顔とともに客に渡すことができる。このことを地方の製造小売りの最大の強みとしてやっていきさえすれば,ちゃんとした未来が待っている。私はそう思うし,そう願っている。