僕は昼間の祝賀会がイヤだった。


 今日,職場の隣にあるホテルに昼飯を買いにいった。と言っても,リッチなランチではなく,ホテルのパン屋でパンを買っただけのこと。まあ,そんなもん。
 ホテルに入ると,いつもポーターやドアマンではなく,背広姿のスタッフが「●高の生徒の皆さんは,こちらです」と声をかけている。慣れぬだろう,まばらに入ってきた高校生たちはうつむき加減で,エスカレーターであがってゆく。そんな様子を目にした。ああ,そうか,今日は公立高校の卒業式だったか。その卒業祝賀会なのか,と思った。
 もう二十数年前になる自分自身の卒業式を思い出した。卒業式前の授業の無い春休みに,私はアルバイトをしていた。仕事は川の流量観測や気象計の記録紙の交換など。短時間のバイトではなく。朝から晩までのフルタイムのバイトだった。リーダーシップのある支部長のもと,職場の雰囲気が良く,居心地がよかった。ずっと,ここで仕事をしたいと思った。バイトの先輩も親切だったし,仕事で遅くなることもあった。観測業務だから,出張も多く現場に出かけるのも楽しみだった。そんなバイトの日々の中に,ぽこんと卒業式が入っていた。
 私にとっての日常は,もはやバイト先の職場だった。級友との世界は,なんだかしっくりこなかった。卒業式とはいえ,そうセンチメンタルになるでもなく,むしろ居心地が悪かった。式典終了後には,当然,祝賀会もある。二十歳に卒業を迎える学校なので,卒業生は,教員と一緒に飲酒もある。私は,それに欠席した。
 もともと団体行動は好きではない性格なのは確かだが,平日の昼間,みんな,特に職場の同僚が働いているときに,酒を飲むことが堪え難かった。学校生活の最後に,お別れと思い出を発散させる場というのはわかる。じゃあ,夜やるりゃあいいんじゃね,と思った。まあ,今もそう思う。祝賀会の写真もあるのだろうが,嫌になって行ってない私の写った写真はない。
 酒を飲むなら,はれて正々堂々と飲みたい。昼間っから酒をかっくらうなんて,みっともないことおよしなさいよ,である。もちろん,今日の高校生たちとは関係があるはずもなく,若かりし自分のかたくなさを改めて思い出しただけのことだ。