ムダはどっちだ?という,つばぜり合いと改革実現


 朝日新聞が興味深い記事を掲載していた。

 行政刷新会議の民間委員で構成する分科会が、財政支出の効率化に関する報告書づくりで、会計検査院の検査のあり方を批判し、見直しを求める記述をしたところ、会計検査院が、とりまとめ役の内閣府に文の削除や修正を繰り返し要求し、内容を変えさせていたことがわかった。


会計検査院、「国民の期待に応えていない」との批判、削除を要求《文書全文》 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


これは穏やかではない。会計検査院は決算の検査を行うのであって,決算前の事務の執行について,適正な経理が行われているか以外の観点から検定したりしないはずだが。

 内容が「検査すべきは数百万円の手続きの間違いでなく政策効果の乏しい巨額支出。国民の期待に応えていない」など、検査院の変革を求めるものだったため反発したとみられる。
 一連の行動を会計検査院は「内閣府は検査対象。たとえ民間委員の意見でも、内閣府がまとめた報告書で我々の検査に意見することは慎重であるべきだ」と説明。検査権限を背景に批判を封じ込めた格好だ。


会計検査院、「国民の期待に応えていない」との批判、削除を要求《文書全文》 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


最後の一文が効いている。「検査権限を背景に批判を封じ込めた格好だ」。どれほどの権能を持つ怖い組織かがわかる。
 では,この分科会は,どんなことを指摘してしまったのか。

 公認会計士や学者ら民間委員は、2009年度に各官庁から会計検査院に提出された証拠書類が5104万枚余になることから、「事務コストの増大が現場に過度な負担をかけている」と記した。


会計検査院、「国民の期待に応えていない」との批判、削除を要求《文書全文》 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


一つ目は,膨大な証拠書類を用意させる検査手法。もう,一つは,

数百万円の過大支出と、政策効果が低い数千億円の支出の検査に同じ手数をかけていると指摘。「国民が期待するのは政策効果が乏しい巨額支出を抽出することだ」と書いた。
 「そもそも政策的な領域に踏み込むことを過度に避ける傾向がある」、「国民視点とは乖離している」とも記述した。


会計検査院、「国民の期待に応えていない」との批判、削除を要求《文書全文》 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


メンツ丸つぶれである。些細な枝葉にこだわり本質論から逃げていると言っているのだ。一番,言われたくないことを言われたわけだから,そりゃ,怒る。言い分もあるだろう,決算と支出手続きを対象にした業務にしており,本質論を行うには予算形成過程に関わっていない以上,限界がある。根幹に手を付けたいが,それが越権だとすれば,チマチマした部分を仕事にしているとの卑下した感情に火が点く。

 内閣府は要求を一部のんで、最終報告では「事業仕分けは会計検査の限界を明らかにした」などの箇所を削除。表現も弱め、分量も半ページ強に減らした。


会計検査院、「国民の期待に応えていない」との批判、削除を要求《文書全文》 - 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary - WEBマガジン - 朝日新聞社(Astand)


 では,事業仕分けの性格を盛り込んだ会計検査としていくためには,もちろん,会計検査院法の改正も必要だろうが,それで目的達成するだろうか?
 別サイトになるが,自動車ジャーナリストの小沢 コージ氏が貴重な指摘をしている。

画期的な仕事は硬直した組織からは生まれない


 結局、本当の判断、本当の改革というものは、1人の気合いの入ったリーダーのもと、カネや人事も含めて総合的に判断しないとできないものなのだ。特にパーツ数やエンジニア数が多いクルマほどそう。そうでないと本当に画期的な商品など作れない。

 ミラ イースの反対の例に挙げられそうなのが、民主党事業仕分けだ。会場では担当者が政治家と相対し、仕分けが決まる。現場は盛り上がる。だが、担当者が本拠地の省庁や外郭団体に戻り「仕分けされました?」と言ったところで、「誰がやるの?」「誰が責任取るの?」「やらなくてもいいじゃん?」と言われれば一貫の終わり。

 結局、お金の出所と人事権を掌握しないと、改革はできない。震災復興もそうだ。最近徐々に被災者に届けられつつあるという義援金も、優秀なリーダーに一任し、責任を持たせないとスピーディーに配られない。そういう意味では、政治家や官僚や東京電力は、民間であり、例えばダイハツのような企業にすべてを任せた方がいい。

 なんでもアイデアや切り口だけではダメ。組織の大切さ、リーダーの重要性を実感したミラ イースなのであった。


第96回ダイハツ・ミラ イース…官僚さん、爪の垢煎じて飲む? - トレンド - 日経トレンディネット


 「第3のエコカー」がうたい文句の新型車,ダイハツ ミラ・イースの開発に当たり,この車種専用の開発組織のリーダーには,そのプロジェクトチームの人事権も予算も与えられていたのだ,という。
 そう,アイディアを思いついたり,よその事案を上手い具合に評論してみたところで,改革は実現しない。ヒトもカネも掌握しないとコトは成らぬ。
 つまり,本質論に迫る会計検査とは,改革目標を持ったリーダーに予算と人事をフィードバックさせるカタチのものでないと,いつまでも,その「限界」にとらわれることだろう。