「どう」片付けるかが問題じゃない。「なぜ」片付けるか?なんだ。


 整理についての本は多い。
 世の中の大勢が整理について悩み,その混沌の中にいるということだ。かくいう私もその一人,数冊の整理の本を持ち,きっちり読んだ。いくつも目を通すと,ノウハウなんて,どれも大して変わらないものだ。まず,捨てろ。1年以上,見ていないものは捨てろ。自分が大事だと思っているものなんて,他人が見れば,ただのゴミ。クリアファイルを活用しろ。分類しすぎるな。などなど。整理整頓が得意な人にとっては日常の作業だろう。この当たり前のノウハウが,できないのが,片付けられない人なのだ。
 片付け術の知識が豊富に転がっているのに,片付けられない人がいるのは,片付ける狙いがはっきりと見えないからだ。片付ける目的,理由が見つけられないのだから,片付ける動機が得られないのだ。
 たまたま手にしたアートディレクター・佐藤可士和氏の整理術に,この理由が明記されていたのだ。

整理がきちんとできれば,自分が把握していないものがいっさいない,クリアな状態になる。そうすれば仕事の効率も上がるし,リスク回避にもなるのです。


p.69 「佐藤可士和の超整理術」 佐藤可士和

おそらく,仕事を優先するあまり,机周りの整理は後回しになってしまうのでしょう。でも,それでは順番が逆なのです。まず,仕事をする場所をすっきりさせることが,仕事の効率をアップさせることにつながるのです。


p.70  「佐藤可士和の超整理術」 佐藤可士和


つまり,(職場においては)整理をするのは「仕事の効率を上げるため」に,整理をするのだ,いう。これまで,幾多の整理のための本を読んだが,整理術を書いてあっても,なぜ,整理をするのか,どんな整理をする理由があるのか、を書き上げたものは無かった。技術論ばかりで,そもそも何のための技術なのかが不明瞭で,知識として身につけた技術を活かせなかった人も多かったはずだ。
佐藤氏は続ける「“本当に必要なものかどうか”自問自答する(p.78)」 ,「いちばん大事なものは何かーーこを決めるのは容易ではありませんが,そを無理してでも決めてみてください。真剣にドライに考えてみることです(p.82)」,そして,こう続ける。

 捨てることは,不安との闘いだと述べましたが,“とりあえず”との闘いでもあるのです。いつ必要になるかわからないものより,いまを大事にしたほうが,どれだけ有意義がわかりません。思い切って捨ててしまって,現状をすっきり明確にしておくほうが,頭のなかもずっとクリアになるのです。


p.86  「佐藤可士和の超整理術」 佐藤可士和


 なぜ,捨てるべきなのかの理由が述べられている。それは「明確となった,いまを大事にするため」だ。
 このあと,場所としての机を問う。そうして「作業をする場所(p.87)」と言い切る。物置でも倉庫でもない,と。


 この本には,アートディレクターとしての佐藤氏の本質が,表れていると言っていいだろう。それは,「本質まで,さかのぼって考える」=「整理する」ことで,表現につなげていくということだ。
 これは何もデザインや広告に限らず,あらゆる仕事に共通することだろう,と思う。
 そして,彼がすべてのことに対して「どうせやるなら,楽しくやりたい」と考え,仕事に対して「楽しく,早く,いい仕事をして,人に喜んでもらって,自分もハッピーになりたい」との気持ちで取り組んでいることに,憧れや共感を持つなら,整理を始めよ,とっとと捨てよ,ということだ。
 彼の言うスポーツのような整理を,だ。


佐藤可士和の超整理術

佐藤可士和の超整理術