「平成の明智光秀」が話題になったことすら,間もなく記憶から消え去ろうとしているわけだが,そういや,事実上の主人公として明智光秀が主人公の小説を読んだことを思い出した。山本謙一著「信長死すべし」だ。
この小説は,本能寺の変・朝廷黒幕説をとる。このネタバレは,さして重要じゃない。ご安心を。ハナっから,朝廷がゴソゴソと蠢く。描かれるのは,小物どもが大事を為してしまうことの逡巡と焦り,当事者意識のなさだ。まさに小物が悪事に手を染める典型があらわれる。
小説はオモシロい。☆で言うなら,3つ半。星1個分は著者に責任はない。明智光秀を題材に描くのだから,その分はどうしても減ってしまう。ただ,この小説から,肝となる部分を抜き出しておきたい。それは,この変化する時代にあって,変化にどうマインドを向けるか,という重要な指摘だ。
光秀とは,あちこちの合戦で,なんども顔を合わせている。せんだっての甲斐でも,あれこれと気をつかってくれた。帷幕内での信長のようすを,それとなく教えてくれるのが,ありがたかった。
これまでの付き合いで家康が見たところ,光秀は律儀な男だ。有職故実にくわしく,茶の湯や連歌にも精通している。
ただ,いかんせん律儀すぎて,頭が固いところが気にかかっていた。
思い込みの激しい男なのだ。
おのが思考で,こうなると,決めてしまうと,そうならなかったときに,なぜだ,と考えこんでしまう男だ。
戦略や戦術を立てるときには,そういう質が致命傷となることがある。
信長なら,予想外の事態になってしまったとき,なぜか,などとは決して考えない。あの男ならば,まずは,一目散にそこから離脱し,回復する方法を考える。
家康も,そういう点では信長を見習っている。
緊急な事態に直面したとき,なぜか,などと考えても仕方がない。
ーーでは,どうするか。
をこそ考えるべきなのだ。
それは,家康が半生のうちに,あまたの将たちの生き方,死に方を目のあたりに観察して身につけた貴重な処世訓である。
p.169〜170 「信長死すべし」 山本謙一
そうなのだ。予想外の緊急時に「なぜだ」と考えこんではいけない。「では,どうするか」である。「なぜだ」と考えこむ光秀は討たれ,「一目散にそこから離脱し,回復する方法を考える」信長と,それに習った家康を天下人となった。
その状況下に考えこんでいたって始まらない。その状況から脱出し,立て直して攻勢をかける。頭でっかちじゃダメだ,動け。
この平成の世においても,光秀という「失敗」から学ぼう。
- 作者: 山本兼一
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
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