読書感想文「日本史の探偵手帳」磯田 道史 (著)

 磯田先生の雑誌寄稿を束ねた一冊である。連載や書き下ろしではないこともあるのか,筆致が抑えられ,ウケを狙いにいっていないところがいい。「戦前エリートはなぜ劣化したか」は,明治維新後のリーダー層を3期に分け,第1期の志士,第2期の慶応年間から明治生まれ,第3期の明治半ばから終わりごろに生まれた者に分け,この第3期をダメ出しする。専門(秀才)バカと総合知不足(世間知らず),そして慢心である。この第3期のダメっぷりを磯田先生は現代に重ねる。
 また,「豊臣秀吉の処世の極意」もいい。誰もが天真爛漫に気分気のままに好き勝手に物を言い,ことを行うことなぞできぬ。大家臣団にあって組織人として振る舞って地位を得た秀吉である。「怖づる,恥づる,感づる」の「三つる」を用いることなのだそうだ。
 巻末に,磯田先生セレクションの「日本と日本人を知る100冊」がある。まだまだ読んでいない本ばかりだ。次の手がかりにしたい。


日本史の探偵手帳 (文春文庫)

日本史の探偵手帳 (文春文庫)