読書感想文「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」 原田 ひ香 (著)

 哺乳類の持つ体温が紙片から伝わる小説群だ。
 原田ひ香の描く登場人物たちのリアルさ。そこに人がいるのがわかる。油断すると触れてしまう気さえする。だからこそ,この短編集は距離がテーマなのだ。誰もが個々に時間も距離も離れたコミュニケーションが取れるようになって久しい。電子メールやメッセージが,個人ホームページや個人ブログなどもその例だ。だが,同時性に意味が出るようになった。SNSがバズること,チャットで仕事が進むことなど,リアルタイムであることのニーズは,さらにコロナ禍でWeb会議が爆発的に増やしさえした。文字,声,写真は情報として距離を易々と超えて届く。
 その一方で,物が届くこととは,時間や場所も相変わらず超えられない。今回,原田ひ香はそこを突く。ディテールの細かさ,登場人物が吐くであろう言葉への信頼は揺るがせない。現代社会にあり触れる感情や気分を掬ってみせた。
 この作家がもっともっと知られ,多くの読者を得,この作家について語り出す人が一人でも増えることを願ってやまない。