悪臭と乱雑 旧・Column Kazuhiro 2000

 気持ちよく田圃や牧場をクルマで駆け抜けていると,不意に未発酵の有機物臭に襲われた経験は,思い出したくない記憶として一つや二つは誰の頭にもあるのではなかろうか。私には,この夏,鼻の穴にコーティングされた臭いが,旅の中の怒りとして記憶されている。
 さて,一見,同じように見える農の風景をつくる欧米の農場の道路で,こんな臭気に襲われることがあるだろうか?そんな疑問が私の頭をよぎった。ない。断固として,ない。私は自分に,そう言い返した。それは,イギリスのハウスキーピングの本の中に,室内をキチンと片付けていないものは人間として問題である旨の言葉を読んだ直後だったからだ。それは,自分の占有空間の乱雑さ加減が,自分の未熟さの度合い=人間性のダメさ加減だと知り,愕然とした直後だったからとも言える。それと同時に私が帰属する社会のだらしなさも知っているからだ。
 悪臭が漂い,雑音が響き,モノが散逸している環境は,まさに我々の社会をつくる個人の熟度の現れなのだ。そうだ,律する意志が問われている。
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