美術館で屁を聞く


 本当さ。聞いたんだよ,後ろから。ブポッ,って。
 一昨日,美術展の最終日で,閉館1時間前に到着。無料駐車場はクルマが並んでいたので近くの有料駐車場にクルマを入れ,館内に入る。当然,中も混んでいて落ち着いてみてらんない状態だけど,まあ,しょうがない。それにしても,カップル多いな。いまどきは映画より,美術館なんだろかね。安上がりかもね。
 そんな余計なことを考えながら4分の3ほどを見終えて,そろそろクライマックスか?という頃,突然,静寂を破るコミカルな音が,私のいる一角に響く。ブポッ。一緒にいる人が何やら声を発したが覚えていない。どうでもいい。それより,どうしてくれよう,この空気。いや,実際,臭い。
 そんなことより,可笑しかったはずだ。美術館なのだ。すましているんだよ,みんな。フフン!て。わかった風な顔をしてさ。そんな緊張感が漂う空間を,あきらかに突き抜けた異音にみんなは吹き出しても良かったはずだ。しかし,えらいなー,みんな。無かったことにしてるのさ。屁はありませんでした,と。聞こえてなんかいません,と。スゴいでしょ。
 私もガマンしましたよ。でもさ,そりゃ,ないでしょうよ,と。屁のなる方を振り返ったのは,私だけでしたよ。これじゃあ,屁に対してとても敏感な人みたいじゃない。
 この先,私は美術館で屁を聞いた人として生きていくわけだ。これからもう一度,経験することなんてあるのだろうか。それを確かめに,美術館へ通おうか。