読書感想文「吉田茂」原 彬久 (著)

 ザ・主人公である。
 自分の職場に白馬で出勤し馬上から上司に挨拶しちゃうのである(本来,それは挨拶とは言わない)。ザ・生意気である。実家が太すぎるのだ。気位の高い養母から「若さま」と呼ばれちゃう。そりゃあ,もう普通には育たないよ。まして,最上位の学歴ロンダリングである。慶應義塾学習院→東大なのだ。そして,28歳で外務省に入省するのだが,ザ・エリートこの上ない。身を粉にして苦難の末,勉学に励んじゃうような立身出世の人じゃない。ハナっから違うのだ。こういう人を銀の匙をくわえて生まれてきた人というのだ。
 大人になってからも大概である。せっかく,本人のためを思って斡旋してくれた人事案件を気分で断る。しかも,一度や二度じゃない。後に,身の振り方を嫁の親父に頼むのだが,なんたって,大久保利通の息子・牧野伸顕なんだもん,天皇にも近い。英米派であり反戦和平派であり反共派の独立自尊の人として,国際政治の中で国の舵取りの方向性を見定めたが,徒党を組んで親分として振る舞う内輪の「政治」が得手な気質ではなかった。
 吉田が政権を降りて80年近くなるが,我々はまだ,この主人公の描いた世界の中にいる。