読書感想文「トヨタ 中国の怪物 豊田章男を社長にした男」児玉 博 (著)

 大陸の権力とは難しい。それは、権威主義国家の厄介さだ。
 人口があり、その市場規模が経済成長を生む。スケールがリターンとなる。それを一党独裁体制が認めているうちはそうなる。だが、社会は一様のままでは無い。かならず変容する。そうなると、権力の志向もやがて変わるし、変調をきたす。
 傑物はどう作られるか、という話しでもある。ひとは失敗を経て強くなる。いや、語るべき失敗や逆境と向き合ったことのない者は強くならない、そう言ってもいいのかもしれない。奥田碩豊田章男にしてそうなのだ。順風満帆ばかりじゃない。中国現代史をモチーフにしながらも、あのトヨタのトップの挫折や苦悩を伴った歩みから学ぶことは多い。
 いまの我々に必要なものとは、1978年に鄧小平が来日した際、「中国が、経済的にひどく遅れていることがよくわかった。まずそれを認めないといけない。正しい政策を作るには、学ぶことがうまくなければならない。(略)まず必要なのは我々が遅れていることを認めることだ。遅れていることを素直に認めれば、希望が生まれる」とユーモアを交え語った認識だ。自分たちの弱さを認め語れるか?しかもトップ自らがだ。
 また、トヨタ生産方式の生みの親・大野耐一に、かつての中国人技術者が不良品の山について「どれも同じやり方、同じ製造方法でやっているその中で不良品が出ても仕方がない。我々は(共産)党が定めた通りの方式で、すべてを忠実にやっている」と語り、不良品が出ることを技術者として恥ずかしいこととする大野を驚かせた。コンプライアンス、KPI、リスク管理ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン…。この時代、管理部門や中枢組織が決めた通りのやり方を守って、結果が振るわず〝不良品〟を出している現場が多いのではないか。
 大躍進した隣国が停滞し始めている。とは言え、我々は彼らが近年歩んだように、驕ることなく、遅れている現状を認め、教えを乞い、原因究明と改善への愚直さを持たねばならない。虎視眈々と。