その国の社会構造が生産活動を規定することと,ビジネスメイクは違うと思うけどな。


 自転車を巡る日本の社会構造については,id:finalvent 先生がずっと,歩行者保護の観点を強く言ってきたように,ずいぶんと歪んだものとなっている。だいたい,車両であるはずの自転車が歩道を,むしろ走りなさい,と標記されているわけで,なんだかなー,と。でも,多少,割り引いて考えてあげちゃうと,これまで日本ではずっと「交通戦争」だったわけで,自動車による歩行者・自転車をひいてしまう交通事故死者数を減らすために,エネルギーを割いてきた。これはあくまで,自動車にひかれないため,すなわち歩行者が安全に通行できることが発想の原点では無かった。結局のところ,高速で移動するために事故というリスクを減らすのだ,ということでしかない。
 また,首都圏を中心に大都市圏では,公共交通が高度に発達し,徒歩+公共交通がもっとも便利なツールであり,地方は公共土木工事により道路を拡充し自家用車が最適ツールとなった。自転車はスムーズに移動する道具としてベストではなかった。
 では,日本における自転車とは何か?

日本の目が世界に向いていない証拠のひとつとして「ママチャリ文化」がある。男性が何も恥ずかしがることなくママチャリに乗っている国は日本くらいであり、外国人からするとその光景は奇妙に見えるという。


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そう,チャリとは,ママチャリである。なぜか。日本における自転車とは,A地点からB地点まで,速く移動するための道具ではなく,A地点からB地点まで,ラクチンに移動するための道具であるからだ。なので,背筋をピンと伸ばして鼻歌まじりに乗る道具であり,かがんでペダルを踏み込みスピードを上げる道具とはなっていない。
 また,安いが一番でもあり,盗まれても致し方ないもの,コンビニの傘同様の「使い捨て」の位置づけですらある。
 こうしたガラパゴスな我が国の自転車事情が,日本の自転車製造に影響を及ぼしているという。

一方で、日本の自転車メーカーは1980年代以降、世界をリードする自転車を作れていません。その理由というのは、日本の市場で売れる自転車の9割がママチャリなので、それを作り続けていれば一応会社の経営規模としては安定することができていたからなんです。そのため日本のメーカーは厳しいグローバルマーケットでの競争に打ってでなかったのです。


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へー。国内で食えるから,あえて世界に進出しないんだよー,と。ヘーそうですか。
 ここで,台湾の,いや世界の自転車メーカー「GIANT」が比較対象とされる。

──GIANTがここまでの成長を可能とした理由として
「絶え間ないイノヴェイションへの意欲」
「企業としての生き残りへの危機感」
「トップによる長期的判断に基づく大胆な決断」
の3点があげられていて、「GIANTの成功の原因を知ることは、日本の失敗の原因を知ることにつながる」とも書かれていました。やはりいまの日本の企業はこういったことが苦手なのでしょうか。


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そんなことないでしょ。こんなことが常に頭に入っていない経営者を捜す方が難しいでしょ。「儲かる!」や「こんなスゴイのをつくったらみんなが欲しがるでしょ?」と思うものをつくりたいと,経営者はいつも思ってる。必要なのは,資金。大胆な投資を可能とする金融,いわば日本が抱えている問題とは,リスクマネーと,グローバル・マーケットで戦えないような円高でしょ。

台湾は人口2,300万人ですから、ひとつの企業が台湾のマーケットだけで生存していくことは不可能です。そのため、創業時の段階から彼らは海外に目が向いています。
GIANTは自分たちの作る製品が世界で売れなければ生きていけないと初めから考えていて、グローバルスタンダードとなるようなモデルをいかに作ろうかと必死になってやってきたわけです。


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いや,別に。だって,日本は加工貿易立国で生きていくんですよって話しは,私のずっと上の世代の教科書に載っていたのだし。
 確かに,GIANTは自転車界の巨大なグローバルプレーヤーとなったわけだが,台湾のメーカーだけでなく,ヨーロッパの老舗や新進メーカーが多数,「ブランド」として存在している。生き残っているのは,決して新興国のメーカーだけじゃない。

GIANTは最近、愛媛県今治市に新しい店舗をオープンしました。常識的には四国地方進出の第1店舗目を今治のような中小都市にはもってこないものですが、「しまなみ海道」という自転車に乗れる最適な環境があるという理由で、GIANTはそこに建てたわけです。そういった店舗戦略は、これまでの日本の自転車ショップの展開とは明らかに異なります。


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日本独自の社会構造が,自転車を選択第一位の移動ツールとしなかった。だが,そのことが,日本の生産活動を規定したわけではない。生産に必要なのは,人,製造技術,そして資本なのであって,金融が枯れてしまって,円高でまともに競争できないことを除いた雰囲気論は有害ですらある。
 まるでアップルストアのようなライフスタイルショップをGIANTはオープンさせた。これに対抗する文化として,日本メーカーにママチャリを輸出しろ,とは思わない。日本でもスピードサイクルが広がる余地は幾分かはあると思う。日本と同様に高齢化する国に向けて,スピードサイクル以外のラクチンサイクルというジャンルのママチャリをそう卑下することはないと思う。
 そんなことより,この日本の現状においてビジネスメイクすることとは,サービス化と情報化だと思うんですけどね。