2020-01-01から1年間の記事一覧
明治以降4代の宮中祭祀とそれぞれの「祈り」の話である。また,その立場が高度な政治性を帯びてしまうが故に,政治的正統性を主張するため,儀式典礼に拠り所を求めざるを得なくなった明治〜戦前の昭和の話でもある。 実は,この本に出てくる話題は,明治前…
地縁血縁。この濃さが本能寺の変,いや戦国社会を読み解くキーワードであると黒鉄ヒロシは説く。エンタメや俗説に踊らされないいぞ,最新研究を織り込むぞの強い意志を感じさせるが,そこは黒鉄ヒロシ。漫画であったとしても決して読み易いわけは無く,むし…
染まっちゃう人たちの話である。神社付属の会館に勤務する若者たちの話であるが,会社に働かせられてたはずの人たちが,仕事に意味を見出したり,職場にいる自分が職場のコミュニティに居心地よさを感じるようになる。そうした「中の人」としての自分に,自…
鈴木敏夫とは,傍らにいる人である。手を動かすことの天才・宮崎駿。哲学することの天才・高畑勲。彼らの隣にて話を聞き,彼らの環境を整え,ときに彼らを唆し,モチベーションを保つ。面白いことに吸い寄せられるように始めたナウシカ。そこからズブズブと…
成人になってしまった子を持つ,あるいは子育てを終えた方々には,悔恨の念が湧き上がってしまうのではないだろうか。と同時に,子どもとここまで向き合えなかった,宇野先生のような存在と知り合うことができなかった。何より,子どもの様子に対して,自分…
お家存続エンターテイメントである。エンタメであるからして,荒唐無稽,御都合主義である。それがどうした。面白ければいいのだ。エピソードは,多い。鮭は美味い。神様はテキトーである。なので,野暮なことは言いたくない。 これだけ登場人物が多く,話題…
「子どものために」と願う大人のための本だ。子どもが守られるとは,実社会においては物理的なものだし,金銭的なものだ。そうした子供が危害を加えられる環境から逃れられるための法的根拠を示したのが,この本だ。子どもを守る理屈であり,守られるための…
談志の懸念を振り払い,21世紀前半の現在まで伝統芸能として「能のようになる」ことを阻止した落語について,この21世紀の歩みを客席側から記録した一冊である。 広瀬和生は寄席や落語会へ足を運ぶ。しかも,学生時代から社会人になって以降も,お気に入りを…
「監督本」である。有名人本であり,私が西武ライオンズファンだからと言って,「我らが辻監督,きっと面白いゾ」と確信を持って入手したわけでは無い。まして,現役監督である,監督生活全てを振り返ったわけでもなく,2年目に優勝した時点で出版された本…
新書のヒット作である。第2次世界大戦の最大の戦死者を出した一連の戦闘・独ソ戦である。しかしながら,これまで全容をわかりやすくコンパクトにまとめた本は無かった。第2次世界大戦は,日本人にとっては日中戦争であり,南洋戦線であり,太平洋戦争であ…
野望や夢を語るのではなく,徹底したリアリストの東大大学院教授・金井先生による自治体議会論である。序章「議会の意義」において,事例とされるのが阿久根市・竹原市長,大阪維新の会を主導した大阪府・橋下知事らの首長暴走である。すでに起きてしまった…
御存知・辞書編纂者の飯間先生の最新刊である。新聞連載をもとにしているので,小気味よくページが進む。サラサラっと。だが,取り上げられる言葉の一つ一つは,さすが,飯間先生がコレクションした「引っかかる言葉」であった。日本語の現在をシャッターで…
キーン先生の生涯最後の新聞連載である。95歳。日記といってもさすがに,最近の出来事よりも,昔の話しや本人の思いの方が多くなる。そして,繰り返し,同じ話も出てくる。この本を読む醍醐味は,繰り返される話を「老人だから」と,いやはや,こりゃどうも…
読後,「あ゛ー,頭を使った」と口をついた。見えないこととは,世界を理解していないわけではない。目の見えない人は,目の見えない人の世界があり,その理解や認識の仕方を,見えてる側から解釈していく。そのことがフルに脳を使わせる。この疲労は既視感…
21世紀現在の不幸を描く力を持つ,希有な作家-原田ひ香をそう呼びたい。 2000年を過ぎて20年が経つ。このミレニアム以降,当たり前の日常を語る土台が共有されなくなり,その一方で,あふれかえる情報は,見せびらかしや成功の対価をひけらかす上っ面でしか…
関西の落語シーンを舞台にした作品である。読んでいて驚いた。江戸の風が吹いているのだ。主人公,最大のキーである師匠,兄弟子,関西落語会の諸先輩たち,これらの関係者の間,心のうちに江戸の人情,風情,粋といった江戸っ子を形作る了見を,登場人物そ…
爺さんの本である。以前であれば,オヤジと呼ばれる人たちが世の中の不条理や自身の情けなさ,みっともなさ,切なさ,恥ずかしさ,つらさなど口から吐き出せない諸々を噛みしめる人たちが持っていた思いを,爺さんになった大竹まことが吐いている。爺さんと…
近世サハリン史である。ニヴフ,ウィルタ,アイヌ。アイヌはすっかり定着した言葉になったが,見慣れぬ単語が頻出する。しかも戦争がからみつき,時間,場所が複雑になる。しかも,極東情勢だけにとどまらず,ヨーロッパにもつながり,時代が進んでいく。 テ…
キャンパス・ルポルタージュである。ルポルタージュとは,センセーショナルであることが望ましく,こんなにも奇人変人変態がいる,常人からは理解不能だ,と騒ぎ立てるのが正しい。本書もそのようにして宣伝されたし,出版された当初,数多の書評もそうした…
ときにドキッと人を刺すような言葉を掲げるお寺のアレのことだ。「お寺の掲示板」を全国から集め連載された企画モノではあるが,さすが選り抜きである。一つ一つが面白い。手練れの住職の決め台詞のような一言もあれば,実直な言葉,有名人のセリフの引用も…
金曜の午後は,職場の連中を連れ立ってバーへ繰り出しパーティをする。日ごろ,絶えず,部下本人の様子を気に掛けるばかりか,部下の家族に何かあれば部下の尻をたたいてでも家族のもとへ向かえと言い,職場の定例ミーティングの冒頭には,週末をどう過ごし…
21世紀版・山本七平著「空気の研究」である。昭和の暗黒粘着物質は,平成・令和を経てどう変わったか?なーんにも変わってない。多様な情報が入ってくるようになったもののインターネット,スマホの「超つながり社会」においては,むしろ世間や空気の息苦し…