2021-01-01から1年間の記事一覧
「地方分権」が旗印になって盛り上がっていた90〜00年代にかけて,地方自治体の職員で田村明を知らずにまちづくりを口にする人間はモグリであった。原典となる田村明の著作は読んでいて当然である。あの頃,田村明=まちづくりである。 その田村の単行本とし…
若い学問分野の勃興期である。 病原体としてのウイルスを研究対象とし,生物に病気をもたらすことを解明したい,病気を防ぎ治療したい,との動機だったのが従来のウイルス学だった。それが研究が進んだ今,必ずしも病気をもたらさないどころか,ウイルスが生…
生命科学,医療,創薬,農業,いやいや,そんなもんじゃないぞ,ゲノム編集のインパクトは。そして,2020年のノーベル賞「クリスパー・キャス9」が,本命である。 何がスゴいのか。ゲノム編集にはクリスパー・キャス9が欠かせないツールになっているという…
ロードムービーという映画ジャンルがある。果たして主人公が主役なのか,それとも移動そのものが主であって,配役としての登場人物は添え物であるか。旅とは,旅するとは何だろうと映像の先に考えさせられる。 そんな映像を見るように,小説世界を楽しんだ。…
気を遣える人,うまくやり過ごせる人,世渡りが上手い人,腰の低い人,人当たりのいい人ーそんな人は羨ましく,憧れたりする。本当はね。ただ,誰しも,そんな性格や精神面,コミュニケーション・スキルのトレーニングを受けているわけじゃ無いから,困難な…
この時代に,他人のためにただただ汗して労している人たちがいる。 ここでいう他人とは,疫病に罹患している人のみを指すのでは無く,疫病で止まってしまった社会,世の中を言う。これを再び回すため,もとに戻すために尽力している人たちを見るとき,通常の…
平成の天皇,皇后はどう行動したか。 2019年3月20日発行,つまり平成が終わる4月30日のひと月前に,立ち止まって考えるため企図された本だ。 平成の天皇,皇后とは,あちこちに出向き,市井の声を聞くために人の輪に入り,膝を折り,問いかけた。その姿と…
サンキュータツオとは,文章の人だ。 ラジオ番組にレギュラー出演し,漫才師として舞台に立つ。そして,「渋谷らくご」の主催者である。だが,彼がもっとも輝くのは文筆である。このエッセイでは,「渋谷らくご」の成り立ちから,どうしても高座に上がっても…
NHKの番組に「地球タクシー」というドキュメンタリーがある。世界各地の都市に出かけ,その街のタクシーにディレクターが乗り込み,その街ならではドライバーの人となりと,街が置かれた物悲しさがダイレクトに伝わる見逃したく無い番組だ。 そんな番組を思…
「まぁ,落ち着け」である。 バラ色の未来を約束する素敵な魔法もたまにはある。だが,おっちょこちょいの僕らは,つい乗って,乗せられて,「発明」や「アイディア」や「ニュース」に飛びつく。そして,往々にして取り返しのつかない顛末を迎えるのだ。 科…
我々はどう読んできたか。源氏物語の時代から,どうやって読書人たり得たのか。 発端は,出版の危機らしい。「かたい本」が売れていないのだ,という。ほほう,そうか。じゃあ,マンガばっかり,テレビばっかり見ていた連中だらけになって,バカな世の中にな…
小学校高学年の教科書に採用すべきでは無いだろうか。もちろん,中高生や大学生にとっても。 天然でコミュニケーションに長けた方はいる。だが,人との交わりや社会や世間の大勢の中で泳ぎ,息をする,まさに生きることの難しさの理由を,たまたま,その人が…
「経営者本」である。 だとすると,新たに経営層,経営メンバーに着いた方に響くか。彼らのハートに届くかが出版のカギではある。だが,実は難しいのではないか。リーダーになった,組織を率いる立場になった,マネージメントする地位についた,そんな方々は…
日本史を日本国内の事情からだけ考える時代の終わりを告げる一冊である。 戦国時代に鉄砲伝来。暗記するなら,それで十分。だが,なんで?と子どものように質問を,いや,QC活動のように質問を繰り返す。寧波や呂宋を経由して,海上物流が発達していたから。…
言葉の本であり,態度の本であり,事実についての本であり,生き方の本である。 なぜか。我々は,難しい時代に生きているからである。どう難しいか。我々はメディアの影響を逃れられないからだ。テレビやラジオ,新聞は言うのに及ばず,ネットの書き込みやSN…
「10の本能」が真実を見誤せる。我々の目を曇らせるのが10の本能だ。本著では「思い込み」という言葉が繰り返される。古く凝り固まったままのイメージで,世界を見ている。いや,違う。見ようともしていない。著者は言う,『知ってると思い込んでいるだけで…
現代の「街道をゆく」である。原先生なので,副題のとおり「鉄道と宗教と天皇」が柱になるし,読者の期待もそこにある。近代の天皇巡幸地が,原先生たちの訪問先となるわけだが,行った先では,記紀の時代に遡るどころか,古墳時代までもが視野の範囲となる…
現在と地続きの「昭和」である。令和にとって平成が前例となるが,その平成に色濃く影響したのが,昭和である。昭和とは何か。ずっと続いたのが,昭和である。昭和という元号があまりにも長く続いたせいで,昭和が当たり前になり過ぎて,年の表記が昭和であ…
主人公・アンは成長したか。高校を出て3年。デパートにテナントとして出店する和菓子屋のアルバイトとして,ただオーダーの入った商品を詰めて会計するのではなく,商品としての和菓子を愛するが故に,客との間のコミュニケーションや商品知識を深めながら…
インターフェース論である。境界がある。自分と他者の境目である。その物理面での境界を知り得る「触覚」がテーマなのである。 触覚が伝える情報量の多さとは,視覚とはフェーズが違う。温度,圧,面積,水分などなど。そして,それらが時間とともに絶えず変…
主人公・桐子その人がやけにくっきりと浮かび上がる。目の前にいるようだ。これまでの人生での社会経験を経た上品な佇まい。八千草薫か。 原田ひ香は,またしても,社会の矛盾,デタラメ,不公平を描く。そしてそれらが絡み合う不幸を。歳を取るーそれは,体…
あぁ,そうか。一つの道を歩んできた人には,その道すがら見てきたもの,知らずに登った山坂から見える眺めが,言葉を連ねさせるのだな。そんなことを松重豊の短編小説に思う。 妄想とも夢の断片とも思わしき正体のわからぬ状況を,テレビや映画の「現場」の…