読書感想文「成瀬は天下を取りにいく」宮島 未奈 (著)

頭のいい子たちのある種の物語だ。なかでも、私は島崎さんのファンである。 天才・成瀬の空気を読まないきっぷの良さに大抵の人はヤられるのだが、成瀬ウォッチャー・島崎さんの神経の太さも大概だ。常識人である島崎さんが一方的に成瀬に振り回されるわけで…

読書感想文「黄金比の縁」石田 夏穂 (著)

過去の「傷」に捉われたままの会社員の物語だ。本当は活躍できたいたはずなのだ、との思いで現実を受け入れられないでいる。世の中の理不尽を、急な雨と同様の不運と見ることができないので、ただただ納得がいかず怒りに捉われたままの人生を送っている。果…

読書感想文「文豪、社長になる」門井 慶喜 (著)

時運に恵まれた男の一生である。例えるなら、インターネット創世記にボータルサイトを立ち上げたり、専門のECサイトを開設するような慧眼であったり、最近だとショート動画をプロデュースするスタートアップなのかもしれない。 もちろん、才覚はあった。縁を…

読書感想文「インタビュー ザ・大関 運と人を味方につける」武田 葉月 (著)

プロスポーツは、短い現役生活を通して「人生」を見せてくれている。 相撲人生における運とは何か。持って生まれた体に恵まれること。考える能力を持ち合わせていること。努力することの価値に気づかしてもらえる環境にいること。その上での努力や才覚である…

読書感想文「図書館のお夜食」原田 ひ香 (著)

森瑤子がどれくらい知的でカッコイイ女のアイコンだったか,'80〜'90年代に10〜20代を過ごした者ならわかっているはずだ。とりわけ、当時の女子にとっては、憧れもしくは眩しかったに違いない。森瑤子を失った日本とは、どうやって贅沢をするといいのかわか…

読書感想文「中学生から知りたいウクライナのこと」小山哲 (著), 藤原辰史 (著)

起きている事象は単純でも、その事情は単純ではない。 ウクライナ史を語るとき、ロシア以上に、ポーランドやリトアニアを抜きにして語ることはできない。このことだけでも十分に厄介だ。カトリック、ユダヤ教、東方正教会の複数の宗教もある。さらに、コサッ…

読書感想文「極楽征夷大将軍」垣根 涼介 (著)

才気張ったマネジメントの敗北である。 マネジメントとは科学の対象である。経営科学という。では、先学に問う。足利尊氏におけるリーダーシップや、マネジメントの秀でたる面とは何か。ワンオンワンを熱心にやるか?傾聴を実践しているか?心理的安全性に気…

読書感想文「悩みの多い30歳へ。世界最高の人材たちと働きながら学んだ自分らしく成功する思考法」キム・ウンジュ (著), 藤田 麗子 (翻訳)

ウンジュは、困難が生じたとき、立ち止まらず飛び込む人だ。短く悩んで、素早く行動した。そうして(止むを得ず)転職を重ねた。そしてグローバル・カンパニーに職を得た。もちろん、ダメだったかもしれないが、挑戦した。それは、準備ができたから挑戦した…

読書感想文「どうする財源ーー貨幣論で読み解く税と財政の仕組み」中野 剛志 (著)

全ての経済学部の学生は必読だ。読後のレポートを書かない者は留年だ。貨幣とは、なぜ貨幣としての機能と役割を持っているのか?がテーマだ。もう一つ言っておこう。全経済学部の教授陣は国際的な学会で通説となっているこの本の論説へ有効な反論を書けない…

読書感想文「機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方」秋田 道夫 (著)

自分を世の中にどう置くか。 その置き方を考えるとき、自分自身を観察することになる。表情であったり、服装であったり、身のこなし方であったり、所作だったり。そのとき自分の軸がたいせつになるが、実はその軸も周りとの関係やその時々で、案外、位置は変…

読書感想文「お金の引力」末岡由紀 (著)

「お金持ちになりたいかー?!」「イェー!!」 「お金持ちになって,やりたいことは、順番に言えるかー?!」「エッ?……」 「お金持ちになって、やりたいことに、何にどれだけ掛かるかの金額を見積もっているかー?!」「いや、その……」 「お金持ちになるた…

読書感想文「六角精児の無理しない生き方」六角精児 (著)

ちょっとメンドくさい人が、自身のメンドくささを自覚し受け入れた人生だ。 なので、実はタイトルはちょっと違う。ずっと無理をしてきたのだ。ただ、無理を続けることができず、無理をすることにギブアップしたのだ。負けを認めて負けを受け入れたのだ。「無…

読書感想文「名著の話 芭蕉も僕も盛っている」伊集院 光 (著)

「原典って、実はこうだぜ」のアフタートークである。 もちろん本番は人気テレビ番組「100分de名著」だ。本番で言ったことのおさらいも兼ねて深掘りする。「奥の細道」は、「奥の細道」というフィクションである。「奥の細道」ワールドというものを芭蕉は構…

読書感想文「法の近代 権力と暴力をわかつもの」嘉戸 一将 (著)

法律を法律たらしめる理屈に悩んだ近代であり、それは代表制をならしめるフィクションの歴史である。 公権力の振る舞いは、役割としての振る舞いである。それは、国民とて同じだ。国民は理性的に法を定め、法により公権力に従う。あくまで、決め事として公権…

読書感想文「20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす」リップシャッツ信元夏代 (著)

人生における出会いとチャンスの獲得とは、言ってしまえば、その時々の場面での「プレゼン」である。 「喋りのできるヤツ」がいる。調子がいいだけじゃないの?懐に飛び込んで、懐いて上手くやってるだけじゃないの?と「そいつは偶然のラッキーを手にしただ…

読書感想文「千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話」済東鉄腸 (著)

千葉の子ども部屋に引きこもりながらも、世界(世の中の意味ではなく、ホントにワールドワイド)につながっちゃったトゥルーストーリーだ。 蛮勇を持って突き進む中世の騎士ドンキホーテ様さながらのおかしみが堪らない。本人もわかっているのだ。痛い自意識…

読書感想文「政治と宗教: 統一教会問題と危機に直面する公共空間」島薗 進 (著)

いい大人が外で真面目に語ってはいけないとされるのが政治と宗教だ。 よせやい、野暮だよ、となる。だが、政治と宗教がどうくっつくかとなると話しは別だ。宗教とは、個人の自律した行動を生む規範の元であり、世の中とつながりを持つ上での紐帯の一つだ。な…

読書感想文「農協の大罪」山下一仁 (著)

「変わらないこと」の典型の話しだ。 制度を改定するには,誰かに極端なババ掴みをさせてはいけない。ババ抜きのような疑心暗鬼状態のゲームだと誰もが次のアクションを避けるようになるからだ。敗戦後、占領政策のもと行われた改革のうち、農地改革や財閥解…

読書感想文「三代目司法書士乃事件簿 増補版」岸本 和平 (著)

相続法・家族法のハウツー本ではない。 実直な司法書士が、長いキャリアで思い出すあんなことこんなことを綴った経験譚だ。当然、本人が語るのは、自身が経験した個別の「事件」だ。なので、この一冊は直接、あなた自身のトラブルや悩みを解決したりしない。…

読書感想文「ある行旅死亡人の物語」武田 惇志 (著), 伊藤 亜衣 (著)

取材ドキュメンタリーである。 世の中、人知れず生きている無名の人がほとんどなのだが、さらに人に知られぬようひっそりと暮らしている人がいて、そんな彼らに光が当たってしまったとき、他所からは「得体の知れない人」という烙印を押されることになる。一…

読書感想文「愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集1」佐々木良 (著)

古文の副読本に採用決定ではないか。 聞こえるのだ。中高生の「ギャハハハ」「バッカじゃない」「やだー」が。所詮、歌だ。思いの丈を叫んじゃった結果だ。カッコいいはずはないのだ。冷静になったとき、くだらねーと思うのだ。 万葉の言葉遣いを解釈から先…

読書感想文「この父ありて 娘たちの歳月」梯 久美子 (著)

父娘の関係とは、他の家族関係と見比べると明らかに違う特殊さがある。例えば、母娘関係がある種の動物的な肉感のある関係であるのに対し、観念的かつ分かちがたい関係だからだ。 書き手となった娘が残した作品と、娘が語る父。溢れるほどの愛を注がれた娘も…

読書感想文「ルワンダ中央銀行総裁日記」服部 正也 (著)

国をつくる話しである。 地味な開発援助の本であるのにロングセラーの一冊だ。途上国で活躍する日本人の熱きドラマがウケるのか。卓越した知恵が難問を解決するからか。いずれでもない。この本に書かれるのは、経験豊富な中央銀行職員が当たり前の金融政策・…

読書感想文「できる社員は「やり過ごす」」高橋 伸夫 (著)

本当は正しい高橋伸夫である。歴史と伝統に裏打ちされた年功序列で運営される日本型経営が正しかったのだ。構造改革、リストラクチャリング、業績主義、成果主義…この30年間導入されて、上手くいったのは何社あるんだ?日本経済はどうなった?肝心な成長はど…

読書感想文「親鸞と日本主義」中島岳志 (著)

親鸞が好き過ぎて、親鸞原理主義に陥った若者たちがいた日本である。 青年が艱難辛苦から、救われたい、逃れたいときに、「他力本願」に気づき、阿弥陀さまに慰撫され、癒され、構ってもらえることが嬉しかったの相違ない。寂しかったのだ。そんな青年たちが…

読書感想文「感性でよむ西洋美術」伊藤 亜紗 (著)

「考えろ、感じろ」な美学入門である。 実は、僕らは美術の教科書を持っていたり、たまに開いたりしたが、何か教わっただろうか。実は、美術とは知識であり、概念である。「きれー」とうっとりしたり、「すごい!」とため息をついている場合では無いのだ。こ…

読書感想文「徹底討論 ! 問われる宗教と“カルト”」島薗 進 (著), 釈 徹宗 (著), 若松 英輔 (著), 櫻井 義秀 (著), 川島 堅二 (著), 小原 克博 (著)

あなたは、このテレビ番組をご覧になられただろうか。時宜を得た番組とその後の出版とは、まさにこのことだ。「あの問題を語る上で日本を代表するベストメンバー」という感想が寄せられたという。まさに語るべき人たちが語った一冊だ。 神仏の類いだ。科学の…

読書感想文「アフターコロナの「法的社会」日本 社会・ビジネスの道筋と転換点を読む」長谷川俊明 (著)

間違いなく我々は転換点にいる。やがて世界史の中においても語られるようなだ。 雰囲気やムードが行動を制することがあったとしても、それは恒常的なものにはならない。ルールや法が決断をさせ社会的な行動の決め手となる。 この本は、ルールを多面的に見る…

読書感想文「見果てぬ日本: 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦」片山 杜秀 (著)

読書家がニヤリとする一冊だ。 司馬遼太郎、小津安二郎、小松左京のそれぞれの作家論は山ほどある。3人分揃ったパッケージだ。イヒヒ。楽しい。全体の半分以上を占めるのが司馬遼だ。それも司馬遼太郎の小説ではなく、エッセイを読んでいる者は気づくのだ。…

読書感想文「ひどい民話を語る会」 京極 夏彦 (著), 多田 克己 (著), 村上 健司 (著), 黒 史郎 (著)

こっそりと申し上げたい。全落語家、落語作家は必読である。急げ、新作(新古典か)のネタの宝庫だ。 まぁ、アレだ。いい大人が四人も集まって、何と馬鹿馬鹿しいことを言ってんだか。ダメなオジさんたちによるダメな会話である。寄ってたかって「ひどい話し…