読書感想文「見果てぬ日本: 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦」片山 杜秀 (著)

読書家がニヤリとする一冊だ。 司馬遼太郎、小津安二郎、小松左京のそれぞれの作家論は山ほどある。3人分揃ったパッケージだ。イヒヒ。楽しい。全体の半分以上を占めるのが司馬遼だ。それも司馬遼太郎の小説ではなく、エッセイを読んでいる者は気づくのだ。…

読書感想文「ひどい民話を語る会」 京極 夏彦 (著), 多田 克己 (著), 村上 健司 (著), 黒 史郎 (著)

こっそりと申し上げたい。全落語家、落語作家は必読である。急げ、新作(新古典か)のネタの宝庫だ。 まぁ、アレだ。いい大人が四人も集まって、何と馬鹿馬鹿しいことを言ってんだか。ダメなオジさんたちによるダメな会話である。寄ってたかって「ひどい話し…

読書感想文「考える教室 大人のための哲学入門」若松 英輔 (著)

「知」あるいは「わからない」ということへの謙虚さについての本だ。その実は,態度についての本である。ここでの態度とは,モノゴトについて考えるための姿勢のことだ。 「立て板に水」でパパパァーッと威勢よく言い切ってしまう人はカッコいい。ヨッ!と掛…

読書感想文「ぼけと利他」伊藤亜紗 (著), 村瀨孝生 (著)

ケアのプロと,身体というインターフェースの先生による往復書簡集である。 ボケという状態と死にゆくプロセスの看取りのケアにおいて,作業としては,そこにある「体(からだ)」が対象ではあるものの,日々,変わる状態だったり,新たな人を受け入れていく…

読書感想文「体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉」伊藤 亜紗 (著)

脳と体と意識の研究最前線である。 「体を動かそうとしているのは頭だとして,頭で思ったとおりには動いていない体を動かしているのは頭以外の何なのだ?問題」なのだ。できていない,という結果はあるのだ。できている像が頭に描けておらず,かつ,そのぼん…

読書感想文「おっさんの掟: 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」」谷口 真由美 (著)

胸糞悪くなって最後まで読み通せるだろうか。途中,本当にそう思った。 モノカルチャーでホモソーシャルな組織運営,グロテスクな上意下達な縁故主義,バカバカしいくらいに不明瞭な意思決定。あー,ダメだ,こりゃ。しかも,まだまだ,存命どころか現役の方…

読書感想文「新プロゼミ行政法 「3つの手続」で行政法の基本を学ぶ」石川 敏行 (著)

ジョークのわかる人間は大切だ。もちろん,ジョークを思いつく人間がいてこそであり,この本は石川節のジョークが冴えわたる。 この本の性格は,「ザ・行政法読本」なのだが,著者のカラーや思い(気分,感情)が多分にこもっている。そう,石川先生の全身性…

読書感想文「つかむ・つかえる行政法」吉田 利宏 (著)

吉田法令本だ。面白いゾ。 法令をわかっている人だ。元衆議院法制局の人なんだから当然だろ,と言いたいアナタ,ちょっと待って。わかってることの深さなのだ。ストンと腹落ちしてるからこそ,多角的に説明ができる。その吉田の最大の強みは,例えツッコミ……

読書感想文「私は合格する勉強だけする」イ・ユンギュ (著), 岡田 直子 (翻訳)

勉強してますか? 豊穣かつ滋味深く奥行きのある知識と教養を持った人間になるための学びの話しではない。試験勉強だったり資格取得のための勉強の話だ。なので,イ・ユンギュは言う。むやみに一生懸命,勉強する必要はない。満点や高得点を取るためじゃなく…

読書感想文「老人ホテル」原田ひ香 (著)

底辺や逆境を描かせると原田ひ香は本当に強い。 今回は,生活保護からの脱却がテーマだ。受給することは権利である一方で,受給者世帯であることは世代を超えて受け継がれてしまいがちなものだ。なぜか。条件が揃った時に,抜け出すための生活様式を学ぶ機会…

読書感想文「自分の仕事をつくる」西村 佳哲 (著)

静かな,そして熱い本だ。仕事において,本質をつくるための試行錯誤である。 登場するそれぞれの人にとっての仕事への目線と方法論だけど,ライフハックの開陳でもなく,ノウハウの伝授であったりでもない。じゃあ何だ。その仕事をしようとするキモは,案外…

読書感想文「新・哲学入門」竹田 青嗣 (著)

先端を行くカッコイイ現代的な相対主義哲学とのサヨナラ宣言である。 著者は相対主義なんて,そんなの哲学の本質じゃないじゃん,哲学の本義は普遍認識を目指す普遍洞察なわけなんだから,概念と論理を突き詰めなきゃ,という。近代市民社会は近代哲学がウラ…

読書感想文「人生百年の教養」亀山 郁夫 (著)

亀山先生73歳の老いて見える人生の風景である。 新書本なのにスラスラとは読めない。亀山先生が今にして語る人生の告白だったり、悔恨だったりがとにかく語られ,読者は付き合わさせられる。亀山青年の刺さったままの棘や傷がまだまだ癒えることなく,むしろ…

読書感想文「今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」」佐藤 耕紀 (著)

あなたは,選択を迫られたことはあるだろうか。どーするんですか!どーしたらいいんですか!決めてくださいよ!と。 ビジネスにおける心理学・認知科学大全である本書は,シーナ・アイエンガーの名著「選択の科学」を思い出させる。シーナの来歴への興味も手…

読書感想文「落語の凄さ」橘 蓮二 (著)

昇太,一之輔,鶴瓶,宮治,志の輔。著者が「人気者」の落語家として選んだインタビュー集だ。この「人気者」というのが厄介だ。世間で知られているところの誰々というのが条件になるからだ。寄席や落語会に年に10回以上通うような人は相当なマニアだ。つ…

読書感想文「ヘルシンキ 生活の練習」朴 沙羅 (著)

朴沙羅は,知っている。実は,全ては金(を稼ぐスキル)だ,と。 生い立ちの複雑さ,文化資本の重要性も含め,彼女の語ることは彼女自身に固有のものだ。だが,これを読む読者はキラキラした「子育てライフ in 北欧」を思い描くだろう。フィンランド社会の中…

読書感想文「首取物語」西條奈加 (著)

和風・異世界冒険ファンタジーである。 読み手の我々の周りを漂う「せつなさ」の正体は何だろうか。本書を読み進める間,ずっと「せつなさ」がまとわりつく。そう,本書に限らず冒険譚とは,実はワクワクが全てではない。せつなさがセットなのだ。冒険のステ…

読書感想文「たとえば、葡萄」大島 真寿美 (著)

ライフ・ウィズ・コロナウィルス・ワールドである。 日々の繰り返しの中で,人はうだうだしたり,グズグズしたりしながら,毎日が過ぎていく。自分で選んだにせよ,感染症の流行のせいにしろ,ある日,状況の変化がやってきて,別な状況が始まってしまう。と…

読書感想文「フィンランド 幸せのメソッド」堀内 都喜子 (著)

社会生活を営む人間とは,ヒトであり,哺乳類である。フィンランドは,その哺乳類として人類が生殖や成長に伴って必要とされるケアや教育を,社会としてどうサポートするかにフォーカスしている。われわれは,必ず乳児期や幼児期を過ごす。哺乳類には,必然…

読書感想文「向田邦子の本棚」向田邦子 (著)

意思と才能がヒトのかたちをして立っている。いつも向田邦子の写真を見ると思う。黒目の力が強いのだ。そんな彼女の文章が愛されるのは,隅々まで神経が通っているからだ。揺るがせにせず,その言葉の置かれる場所やタイミングに意味と意図がある。そのこと…

読書感想文「新時代LX―持続可能な地域の未来を切り拓く」受田浩之 (著)

何じゃコリャ。ドリーム・ストーリーじゃん。 まったく,不勉強にて失礼しました。知らなかったです。高知の成功物語。実は,高知が伸びている。バケたのだ。しかも偶然じゃない。戦略的に伸ばしたのだ。いやー,スゴい。 何がって,ボトムアップの県民運動…

読書感想文「ぼくらの戦争なんだぜ」高橋源一郎 (著)

戦争(がある世の中)の文学である。 毎年,ひとは生まれる。なので,平和な年も戦争の年も子どもは生まれる。平和な年も戦争の年も全ての学年生まれの子どもがいる。なので,後に戦争を語るのは,当時,「多感な少年少女時代を過ごした者」ばかりではない。…

読書感想文「財布は踊る」原田 ひ香 (著)

隣近所のダークネスである。 では,財布とは何か。本来はお金を入れる袋だ。だから,ATMの横の壁に挿さっている金融機関の封筒だっていいはずで,借金を返すときにその金融機関の封筒が意味ありげに使われたりするように,財布の意味とはお金が入っている(…

読書感想文「吉田茂」原 彬久 (著)

ザ・主人公である。 自分の職場に白馬で出勤し馬上から上司に挨拶しちゃうのである(本来,それは挨拶とは言わない)。ザ・生意気である。実家が太すぎるのだ。気位の高い養母から「若さま」と呼ばれちゃう。そりゃあ,もう普通には育たないよ。まして,最上…

読書感想文「学校に入り込むニセ科学」左巻 健男 (著)

ときに科学はワクワクしないし,エモくない。実証・検証の繰り返しだし,事実を積み重ねていく気の遠くなるような作業だったりする。なので,結果をパッと見せてくれるような画期的な手品のような魔法のような何かに人は飛びつく。だって,楽ちんだし,すご…

読書感想文「オカルト化する日本の教育」原田 実 (著)

あなたの「何か気持ちわりーなー」は大体あってる。その種明かし本である。 真顔でもっともらしいことを言っていたらウケちゃったのである。いや,そんなに真剣に受け取られても,と思ったに違いない。だが,先生とよばれ,権威になっていくと引っ込みがつか…

読書感想文「宴のあと」三島 由紀夫 (著)

世間知らずの男の話である。 こんな可愛らしさとさえ言えそうな生真面目を背負っているピューリタン的世間知らずが,外務大臣を務めていたなんて信じられるだろうか。戯画的だ。お人好しかも知れないが融通の効かないバカでさえある。つまるところ,甘やかさ…

読書感想文「うつ病は心の弱さが原因ではない: ウイルス原因説から見えるうつ病治療の未来」近藤一博 (著), にしかわたく (著)

全ては疲労である。 なので,ホントは休めばいいのだが,ウィルスが機能しちゃってる人はそれができない。何がって,僕等にお馴染みのヘルペスウィルスが主役なわけだ。みんな,持ってるヘルペスウィルスだ。疲労とウィルスと抗体,そして遺伝子であり,結果…

読書感想文「東芝解体 電機メーカーが消える日」大西康之 (著)

Lo-D,Technics,OTTO,Aurex,日本marantz,DIATONE,山水,nakamichi,DENON,OPTONICA,AKAI,……。呪文ではない。かつて日本の電気メーカー各社が競って世に送り出したオーディオ・ブランドだ。大手電気メーカー系もあれば,独立系もある。かつて家電量販…

読書感想文「職業としての官僚」嶋田 博子 (著)

優秀な官僚に委ねてしまえば万事,上手くいくはず…。そんなことは誰も思わなくなって久しい今,かつての公務員制度改革には「労働市場で優秀な人材をいかに惹きつけるか」「良い政策実現のために,政治が持たない知見をどう補完するか」といった,人事政策の…